生きること

小さな命の物語 - 仔猫の保護からみた生命の奇跡 –

1ヶ月程前、生後間もない1匹の仔猫を保護しました。その3日目後には、まさに命の火が消えようとしている姿を目の当たりにし、命の意味を考えさせられました。
繁殖力の強い地域猫と人の暮らし方、動物愛護の考え方、横浜で活動するあるボランディア団体との出会いで、感じたものがあります。
長くなりますが、ちょっと不思議なエピソードも踏まえここでご紹介します。

たった一匹の猫から、1年で50匹の繁殖力

猫は生後4ヶ月から繁殖可能で、一度の出産で4〜8匹を産み、1年で2〜4回の出産が可能です。1匹でも残せばあっという間に子猫や孫猫が生まれ、1年で50匹にもなってしまいます。
保健所に収容される所有者不明猫のうち、離乳前の子猫が占める割合は74%。そして、その多くが殺処分となります。

それを防ぐために「一度も産ませない」という活動が、各地の動物愛護団体で行われています。地域猫を捕まえ不妊手術をして、元の場所に戻す。手術済みの印として、片耳を桜の花びら型にカットし「さくらねこ」となります。
私も5年ほど前からさくらねこサポーターとなり、手術費用のために毎月寄付しています。

ただ我が家の2匹の猫たちも保護猫で里親募集で引き取った猫たちですが、私が直接そのような地域猫に触れる機会は、これまでありませんでした。

7月29日:早朝の訪問客

うちの猫たちの聞いたことのない鳴き声で目覚めました。窓の外に向かって鳴いているので、何事かとカーテンの外を覗くと、3匹の子ねこたちが・・・。
いざ私の目の前に現れた地域猫たち。保護するべきなのか、放っておけばいいか、本当は避妊手術をしてあげるべきなんだろうなどという思いがよぎりながら、やがて猫たちは去っていきました。
その時の動画はこちら

9月8日:三毛猫 捕獲

地域猫に出会ってから、バルコニーにエサを出しておくようになりました。その姿は見たことはないけれど、毎日食べにきていました。
横浜市が地域猫活動支援をしていることを知り問い合わせ、地域の動物愛護ボランディア団体を紹介され、その代表 日向さんとの運命の出会いを迎えます。
日向さんが我が家に来てくださり、捕獲器をセット。その晩2匹の猫を捕獲しました。そのうち1匹は、先日の早朝訪れた三毛猫です。あの時は、まだ子猫といった感じでしたが、だいぶ大きくなっていました。この三毛猫は後から引っかかったためお迎えは翌朝に。捕獲器のかごに入ったまま室内に入れて一晩を一緒に過ごしました。
この三毛猫は大人しく、翌朝、私はかごの外に座り込み、この子と見つめ合いながら会話をしている気分でした。この子の里親になってくれる人がいるといいなと思いながら写真を撮り、知人に送って希望する返事もありました。

9月9日:避妊手術

手術前日、迎えに来た日向さんに見てもらうと、生後半年くらいだろうとのことでした。飼ってもらえる人がいれば里親に出せるかと尋ねると、ここまで大きくなると人に懐くのは難しいだろうとのお返事でした。歩くか歩かないかくらいの小さな時期に、人に育てられた子は人に懐くけれど、その後は三つ子の魂百までのようになかなか難しいという話を聞きました。「猫にとっても人間にとっても、不幸な状態になることがある」という日向さんの経験からの重みのある言葉でした。
それでもその猫の特性もあるので、麻酔注射をする時の様子でおとなしいようだったりすれば、飼える可能性があるかもしれないと、様子を電話で伝えてくれることになりました。

日向さんは、保護動物専用の動物病院サクラスペイクリニックの代表でもあり、そこで手術が行われます。そして昼過ぎ、病院からかかってきた電話の内容は、私の想像を大きく超える驚きのものでした。
なんとこの三毛猫は、出産したばかりの状態だというのです。そうなると、里親探しどころではなく、母親を待つ赤ちゃんの元に、一刻も早く返さなければいけません。
この日は、たくさんの猫たちの手術があり、夜の9時になってもまだ手術が行われたため、私が迎えに行きますと車を病院まで走らせました。10時前に到着、すべての手術を終えた猫たちがそれぞれのケージに入っていました。
アニマルシェルターを兼ねたその動物病院は、譲渡先を待つかわいい子猫たちもケージの中で保護されていました。愛情を持って保護されていることが伝わる光景、私が初めて触れ合った世界でした。
そして私は急いで家に戻り、2匹の猫をリリース。母猫が赤ちゃんの元に無事帰り、母乳を与える事を祈りました。
日向さんからは「頑張って、その子猫たちを見つけてね」との次なるミッションをもらい、母猫が子猫たちを連れてきてくれることを夢見ながら、変わらずバルコニーにエサを起き続ける毎日を過ごしていました。

9月20日:仔猫保護

この日の夕方は、たまたま近所の公園で飼い犬が逃げ出し、車の通りの激しい道に出てしまうというシーンに出くわし、その犬を追いかけるといったハプニングの中に私もいました。その犬は見つかることがなく、私は用事があったため一度家に戻り、用事を終えてからその犬が気になったので、一人で探しにでかけました。

雨が降り出した夜でした。家を出て1〜2分、古いお屋敷の茂みの中から聞こえる子猫の鳴き声を耳にします。近付くと力強い鳴き声が響いてきました。茂みに潜り込み、古びた火鉢があるのを確認。そこから聞こえているようでした。真っ暗で見えないので、火鉢の中にiPhoneの懐中電灯を当て、その底に1匹の小さな仔猫の姿を確認しました。
母親の姿はなく、火鉢には半分ほどのフタがかかっていて、ここから母猫が救出するのも難しい状況。仔猫を拾い上げ保護しました。

そこは、あの三毛猫の子どもがいるとしたらこのお屋敷だろうと、私が何となく当たりをつけていた場所でした。目が開きはじめた状態なので、生後10日過ぎとみられ、あの母猫が出産した時期と重なります。そしてこの子も三毛猫です。
日向さんにもLINEでアドバイスをもらいながら、3時間おきにミルクを与える私の育児生活が始まりました。

9月22日:命の危機

保護して3日目。哺乳びんは必死に吸っているのに、ミルクの量は減らず、120gあった体重は100gに。
私のミルクの飲ませ方が間違っているのでは?と、ミルクと哺乳びんを持って、夕方、うちの猫たちのかかりつけの動物病院に連れて行きました。
先生の前で哺乳瓶を一生懸命吸っているので、その姿を見て「大丈夫ですよ。あまり飲まないようなら、カテーテルで胃にミルクを流し込むという事もできるけど、そもそもそうなった時には、難しい状況ですね」と。ひとまず帰宅。

でも夜にミルクを与えながら、その力のないぐったりした姿に、保護したときの元気に鳴いていた姿を思い起こし、、、明らかに違う。これはおかしい。と確信。
あの日向さんは准看護師。いてもたってもいられず、電話しました。地方での出張手術の仕事を終えたところで、「9時過ぎには戻るから。」との言葉に、車を走らせました。 出張から戻ってきたばかりで、シェルターの保護犬、保護猫たちにエサをあげるのに忙しそうでした。

その仕事を一通り終えて、私の連れてきた仔猫を出し見せました。触った瞬間「これはまずい…。脱水症状起こしてる」と、表情が変わりました。
すぐに点滴パックを電子レンジで温め、ミルクは持ってるかと私に尋ね、あると答えすぐさま出すと、慌てられている様子もみせながらも、手際良くミルクを作り、ゴムの乳首から出方が少ないことを確認し、ハサミを探しカット。
子猫に吸わせるも、力なく吸うことができない・・・。すぐに点滴をセットして仔猫の背中に刺すが、もう皮膚の下に隙間もなく、針を刺しても点滴が落ちていかず入らない状態。
次にシリンジにミルクを入れ、カテーテルの管をセット。仔猫の口からカテーテルを差し込み、子猫の胃に直接ミルクを10g注入。
私は隣で震え祈りながら、見ているしかできませんでした。でも、祈りが通じることを信じて、思いを天に届けていました。

できる限りの措置は終わり、私はそのプロの仕事ぶりに圧倒され、緊張は止まずにいました。「この後私はどうすればいいのでしょう?」との質問に、今晩は連れて帰ってミルクをあげること、と。シリンジとカテーテルを渡され、ミルクを飲む量が少なくて心配ならば、自分でやってみるといいと言われました。
「もしかしたら、7,8割は難しいかもしれない」との言葉に、今晩が山場であることを悟りました。

帰宅して、夜中の1時と4時の2回のミルク。ぐったりしたままで哺乳びんのミルクは全く飲もうとしないので「やるしかない」と覚悟を決め、教えられた通りにミルクの入ったカテーテルの管を、子猫の喉から通し胃の位置まで挿入。カテーテルにつながったシリンジを押し、5gのミルクを2回、胃まで届けました。
枕元に子猫の入ったかごをおいて寝ていましたが、中を除いたら息をしていないのではないか、、、命の火が消えようとしている感覚と共に眠りました。

そして世が明け・・・「火が灯っている」そう確信できる姿がありました。「生命力」その言葉の意味を、肌で感じる瞬間でした。

そして前日の約束通り、点滴をしてもらうために日向さんのところにも連れていきました。仔猫の様子を見て「もう大丈夫。伊波さんのセンスの良さよ」と、明るい笑顔に、これまでの緊張がほぐれていきました。

保護から1ヶ月

100gだった体重も、その後ミルクをたくさん飲み、自分で立ち上がるようになり、今では500gを超えるまでに大きくなりました。お腹が空いたと大声で鳴き、ミルクを欲して力強くミルクを吸い、出が悪い時は手をばたばたさせて怒り暴れる姿に可愛さを感じると共に、これが生命の源であることを実感します。

命は時に短く、限りあるもの。
だからこそ、「生命の奇跡」を感じます。

子猫の名前は、「だいず」と名付けました。
「畑の肉」と言われる大豆のように、小さな体で力強く育っていくことを願い、そして私たち人間の生活も地球に優しいスマートな手法で、最大限のエネルギーを作れる社会になれるよう、未来に思いを込めています。

 

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