現代美術にみる身体性としてのテクノロジー

A Study on Technology Including Pysical in Modern Art
Work ; “Inside”

おわりに

 

 この論文の中で述べてきたように,今,私達は大きな時代の断絶期に立たされていると言える。物質文明が産み落とした歪みは,新しい形で塗り変えられようとしている。それは,物質を越えた人間の精神に関わるものであり,電子テクノロジーはまさに精神という領域に踏み込みはじめていることが明らかになってきた。その精神的な世界とは,物質文明が発展する以前には,自然に受け入れられてきたものであり,人間として本来の姿が存在することのできる状態である。テクノロジーが可能にしているものは,過去への回帰という側面 も備えた上で,さらに新たな次元へ私達を導いてゆこうとしているようにみえる。

 その中で芸術の担う役割は,それまで分断されていたテクノロジーと身体の関係を,精神というフィルターを介して結び付けるものであるのかもしれない。今回の修了制作である《Inside≫は,メディアというテクノロジーにより,胎児期の世界を再現したものであり,そこでの人間の根源的な部分に訴える臨場感は,テクノロジーの恩恵であるといえるだろう。

 これから,芸術を通して表現活動を行ってゆくにあたって,作家として社会に貢献できることは,人々に感動や安らぎを与える事であると感じている。それは、女性であり,日本人であるという感性に従って表現することに意義を感じ,これからの時代こそ,人々を包括的に包み込むような母性的な空間作りが必要とされるのではないかと思う。現代社会で生活する人々に,一瞬の間でも現実を離れ,いやしとしての時間と空間を提示することができるのであれば,芸術を通 して,時代としての任務を果たすことができたと言えるだろう。